笊の水汲み　あるいは日々の猫　ーfixxによるブログ的な何かー

見えないことではなく、
何が見えるかを語ろう。
どんなにありふれたものでも、
今、ともにあるものを。

隔絶された場所で、
無為にくつろぐしかない午後。
危機はまさに目の前にあり、
あてどなく眠る。
妙な心地よさ。

外に出て得られるのは、
完了しないパースペクティブ。
失われたものは、
自分のものだと思える空間。

自ら光彩を欠いていることによって、
際立って見える姿。
世界と内面との凛冽なコントラスト。

そして、自分もまた
木々や木の葉や小石と同じく、
存在していること。
同じように姿を変えることを思い出した。
だから、せめてちょっとの間、一緒にいよう。

今日は河口に誰もいない。
雨宿りにつきあわされ、
塩辛い風を嗅ぎ、
雨に砂粒を貼り付かせる。
うわべの変化が僕らにとってのすべて。
その下に何があっても、
視線は届かない。

地平を駆け降りる。
存在しない生活を追っているのか、
現実そのものから逃げているのか。
どちらに見えても構わない。
走る速度が楽しい瞬間ってのも、あるんだから。

この爪だけが頼り。
世界に小さな傷をつけるため、
鋭く研いでおかなきゃね。

伸びとともに歩き出すように、
ひとつの終わりをむかえられたら
いいだろうね。
うん、と背を反らして。

振り返ると誰かが後をついてくる。
あれはまだ若い、昔の自分？
ファンタジーはやめろ。
後ろから来るのが、明日の自分ではない保証はない。

ひとりだろうと、
誰かがいようと、
困難なのは同じこと。
だから、
あなたは心配しないで、
そのまま道をお行きなさい。

不本意だけれど、
帰るという行為には別れが含まれている。
くるりと背を向け、
はじめはゆるく、
やがて急ぎ足で互いから遠ざかる。
さよなら。またね。

不意に、
小さな光景がズームアップする。
退屈した空がのぞき込む。
置き忘れられた地平に映し出されるのは、
いったいどんな物語か？

海は形を失い、陸はわずかに削られ、
それでも
共にある。

体内をめぐる海が、
ちいさな波を繰り返す。
つめたいリズム。

あれはぼくじゃない。
ぼくの父でもない。
子どものころ、この場所にきたこともない。
なのに、
この目にあふれる懐かしさはなんだろう。
光景はぼくに何かを告げることなく、
ぼくを通して語る。
意味ではなく、体験そのものを。

夕暮れ、
汽水域を望む河口の一角。
そこここに潜む、
ぼんやりとした影となって、
日の沈んだあたりを眺め続けるひと。
すりへった感情が軋むような、
かすかな波の音。

生きるという仕事には、
単純になりきる技術と、
それより困難な
楽しい労働が必要。
すべりやすい皮膚をした意思を
しっかりと押さえつける爪、
ヒトにあるのかな？

結局のところ、断言できる道などはない。
それでも、不安に導かれることを選んだからには、
この先を見てみるべきなんだろう。

行こう。
同じ眼差しの先にあるもの、
あるいは、ないもの。
それを声にするときに
やっと、はじまりは終わる。
さあ、かけ声とともに、質問に続く沈黙の先へ。